ラズライト・ノーブル〜lazlight noble〜
著者:shauna


髪と同じ綺麗な夕焼け色のドレスで着飾り、泣いて真っ赤になってしまった眼を化粧で隠して、ミーティアは城の地下最深部に居た。
ここにあるのは2つだけである。
一つは罪人を一時的に閉じ込めておくための地下牢。もちろんこちらには一切用事はない。
ミーティアが今いるのはもう一つの場所である。
神殿の如き造りを成されたその奥にはもう一つ大きな扉があった。
その先がどうなっているのかはわからない。あの向こうに大きな魔法陣があるのか。それともあれ自体がその装置自身なのか。
“刻の扉”。
あの装置はそう呼ばれている。
どんな場所にも一瞬で移動できる究極の装置だ。
まあ、そんな簡単に使用許可が下りることはないけれど・・・。
でも、その使用が許可されているということからも今から来る相手がそこそこ偉い人間だということが分かる。
「それで・・本日はどのような方がお越しになるのですか?」
らしくなさにちょっと鳥肌の立つ喋りでミーティアは近くの文官に尋ねる。もちろん、いま隣にいるのだって大臣クラスの高官だ。
その高官がガチガチに緊張しているんだから間違いなくただ者ではあるまい。ということは王族がわざわざ出向かなければならない程偉い人間ということになる。
まさかとは思うが・・・
「聖蒼貴族でございます。しかも、今回お越しになるのはその中でも四大貴族に数えられるフェルトマリア様とフィンハオラン様でして・・・。」
「聖蒼貴族!?」
 予感的中。あまりの驚きについ我を忘れそうになってしまった。
 でも、驚くのも当然だ。
 聖蒼貴族といえば、それこそとんでも無くクラスの高い貴族である。かつて、この国の前身であるユニオン王国が出来る前にこの世界は最高に平和な時代があった。
なぜならある一国が世界を全てを統べていたからである。その名はエーフェ皇国。今は無き、その国が存在したのは僅か半年だけなのだが、当時絶大なる権力で世界の頂点に君臨していた。
そのエーフェ皇国の元大貴族が現在の聖蒼貴族と呼ばれている。クライトス家やレフェルト家やスナウト家などわずか20家しかないその家柄の権力は王族でやっと並ぶことが出来る程。その中でも四大貴族と呼ばれる。4つの家。
世界最良の貴族、フェルトマリア家。
世界最古の貴族、フィンハオラン家
世界最富の貴族、ハルランディア家
世界最強の貴族、グロリアーナ家
この4つの家はもはや異常と言っていい、もともと、政治と貴族の統率を担当していたのがフェルトマリア家で、式典や公文書の管理をしていたのがフィンハオラン家。
貿易や外交を担当していたのがハルランディア家で、軍事を担当していたのがグロリアーナ家であるのだが、現在この家柄の物を一人でも召抱えることができれば、それぞれの家柄の部門において自らの国が世界でトップであることの証にすらなってしまう。それどころか、たかが貴族である彼らの一言で小国が滅んでしまうことすらあるらしい。
だからこんなに警備が物々しかったのか・・・・
今回の警備担当であるロレーヌ侯爵が張りきるわけだ。
これはまずい。粗相をすればもしかしたら王族と言えど、家が取り潰されるかもしれない。
一気に緊張感が高まった所で、扉がゆっくりと開いた。
その場の全員がミーティアを先頭に美しく隊列を組み、中からの人影を待つ。
そして、その姿を見つけるなり全員が一礼した。まるで学校の不良が先輩の番長を出迎えるようであり、ミーティアは僅かに笑ってしまった。
中から人影が出切ってから扉が自動的にゆっくりと閉まる。
そして、全員が頭を上げた時にその全員が目を疑った。
もちろんミーティアもだ。
「え?・・・・魔法学生?」
とまで見紛う程若い男女だった。
聖蒼貴族なんて名を冠するぐらいだ。出てくるのは間違いなくとんでもなく偉そうにふんぞり返るジジイ達だと思っていた。なのに・・出て来たのは・・・・
鳳凰と龍の模様が施された綺麗な青のまるで歴史の教科書で東洋の皇帝が着ていそうな漢服に黒の東洋冠をし、腰には装飾の著しい西洋刀をぶら下げている以外はまったく貴族に見えない、クシャクシャの黒髪をした姉セレナと同じぐらいの青年。
そして、白孔雀と水仙の刺繍が施されたレース状のローブを腰の辺りで黄色の帯で留め(そのせいで、その下に着ている黒のショートジャケットと袴のようなズボンが透けている)、頭にガラスの装飾がシャラシャラ鳴る金色の冠をし、右手には十字架と王冠を象った身長の1.5倍はある真っ白な杖を、右手には家紋の描かれた紫色の布で包まれた細長い箱を持った真っ白な髪の美少女のだったのだが・・・。
 なんとなく雰囲気で先に出てきた方は召使っぽいからいいとして、後ろから出てきた少女はなんなんだ。美少女なんて俗っぽい表現をすると失礼な気さえするし、手垢の付いた言葉など十、二十並べた所で彼女の容姿を正確に表すのは難しい。
 実はミーティア自身、自分はおそらく多少の自惚れを除いたとしても自分は美少女と呼ばれる範疇に居るのではないかと・・。
 だって根本的な遺伝子はあの母と一緒なのだから・・・
 でも、彼女を見てしまった今となっては自身喪失どころの騒ぎではない。同性の自分の目から見ても十分すぎる程に美しいのだ。
 こりゃ・・・
 ミーティアが後ろを少し振り返るとボーっとした顔でその少女を見つめる兵士と先程の文官が居た。
 この男達がこんな目で見つめてしまうのも頷けた。
 後ろの男達はほっといて、ミーティアは早速彼女の前に進み出る。
 「ようこそいらっしゃいました。私はミーティア=ラン=ディ=スペリオルです。本国にお招き出来て誠に光栄の極みにございます。」
 ミーティアの一礼に合わせて、相手も礼を返す。
 「御挨拶、光栄至極です。シルフィリア=アーティカルタ=フェルトマリアでございます。この度はお招きいただき、ありがとうございます。」
 その対応の良さにはミーティアも驚いてしまう。
 それに対し頭を上げたシルフィリアが「何か?」と小さく聞いた。いや、ただ、聖蒼貴族ってもっとえらそうにふんぞり返ってる連中かと・・・などとは流石に言えない。
「なんでもありません。御休所にご案内します。」
 ミーティアはそう言うと踵を返していつもより3倍以上の兵士の警備する本来なら王族専用の通路をゆっくりと歩き出した。
 ミーティアの先導でシルフィリアとアリエスが歩きだす。
 その後ろから後を追うようにして文官と兵士達が付いてくる形だ。
 しかし、この時にミーティアは気が付くべきだったのだ。
 僅かな城の異変を・・・。
 気が付くべき異変を・・・



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